イベントレポート: JICA BLUE最終報告会 ー海外協力隊経験者が歩む「起業」という生き方ー
2024.08.30|イベント お知らせ レポート
2024年8月20日、JICA海外協力隊経験者を対象とした起業支援プロジェクト「BLUE」の最終報告会が、渋谷スクランブルホールにて開催されました。本イベントでは、BLUEを通して社会起業家としての一歩を踏み出したJICA海外協力隊経験者(以下、OV)のビジネスプランピッチをはじめ、BLUE第1期の振り返りと今後の展望について議論が交わされました。参加申込数は、280名以上を超え当日は約90名の方が会場にお越しくださいました。
本記事では、イベントの様子をダイジェストでお伝えします。
はじめに、JICAの井倉 義伸理事がオープニングスピーチを行いました。来年、JICA海外協力隊は60周年を迎え、累計の派遣隊員数も5万6,000名を超える旨を伝えた上で、「本イベントが参加者との共創の機会となることを期待している」と述べました。
(写真:オープニングスピーチの様子)
第1部: 起業伴走プログラム1期生によるビジネスピッチ
第1部では、JICA BLUEの起業伴走プログラムを終えた1期生3名が、それぞれのビジネスプランを発表しました。このプログラムは、起業に関心のあるJICA海外協力隊経験者を対象に実施したものです。約3ヶ月間のプログラムを経て、磨き上げられたビジネスプランが披露されました。
1. 木村正樹氏:「森林を守る木工品事業」
最初に登壇したのは、森林を守る木工品事業を提案した木村正樹氏です。JICA海外協力隊では環境教育隊員としてベリーズへ派遣された経歴を持つ木村氏は、現在会社員として林業に携わっています。日本の伝統的な木工技術を継承しながら、現代のニーズに合わせた商品を開発・販売することを目指すプランを発表しました。
日本では、伝統的な木工技術が次世代に継承されず、失われつつある現状があります。また、木工職人の高齢化が進み、後継者不足も深刻です。それに加え、伐倒期にある木々が放置され、森林が荒廃しています。木村氏はこの課題に着目し、自らが森林を守る仕組みを生み出す木工品事業「MOCTORY」を立ち上げることを発表しました。
最後は、自身の名前「木村正樹」に隠れた3つの「木」を例に挙げ、「木を見て森を見る」と、自身の事業コンセプトと紐づけ、当事業に挑む覚悟で締めくくりました。
鈴木雅剛氏(株式会社ボーダレス・ジャパン副社長)は「事業のネーミングがキャッチーで親しみやすい。ファンを広げながら日本全国へ面白い企画を広げていってください」と激励メッセージを送りました。
2. 太田蒔子氏:「複数の選択肢を得て、主体的な高卒就職を目指す」
次に登壇したのは、ショク探(職業探究)プログラムを発表した太田蒔子氏です。青少年活動隊員としてソロモン諸島へ派遣歴がある太田氏は、日本国内の高校生を対象に、職業選択の幅を広げるインターンプログラムを提供することを目的とする事業を発表しました。
現在、千葉県八街市で10代の居場所事業を行っている太田氏は、就職を目指す高校生との会話の中である課題を見つけました。それは、彼らが持つ「限られた職業選択肢」、そしてそれが原因で起こる就業後のミスマッチと不満足なキャリア形成の問題でした。
従来の大人のフィルターにかけられた職業紹介による「受け身の就職」ではなく「主体的に職業を選べる機会の提供」を実現するために、BLUE起業伴走プログラムの中で企業と連携したインターンプログラム事業を考えました。
このプログラムを通じて、生徒たちは自らの適性を理解し、納得感のある就職を実現できるようになります。太田氏は、プログラムの拡大を通し、高校生が「みんながそうしているから」「紹介されたから」仕事に就くのではなく、自らが「やりたい」と思える職業との出会いを創出することを目指しています。
太田氏のプランに対し、山口豪志氏(株式会社54 代表取締役)は「学生と企業がフラットに関わり合える仕組みは素晴らしい。加えて、企業目線に立った時に価格設定を見直しても良いかもしれない。」と感想を述べました。
3. 平野耕志氏:「ザンビアの小規模農家の所得向上を実現するブルーベリー事業」
最後に登壇したのは、ザンビアで小規模農家の支援と現地の健康向上を目指すブルーベリー事業を発表した平野耕志氏です。
村落開発普及員としてザンビア共和国へ派遣された経歴を持ち、現在静岡でキウイフルーツを使った観光農園を経営する平野氏は、隊員時代に現地農家に言われた「農業は仕事がない人がやる仕事」という言葉にショックを受けたことを共有しました。その一方で、医師からいわれた「難病を治療するには優秀な医者と農家が必要」という言葉も共有し、日々口にする食物の重要性と「人々の健康を支える農家はもっと誇りを持つべき仕事だ」と力強く訴えました。
「小規模の農家の所得と誇りの向上」「人々の健康」「ブルーベリーの栄養価の高さ」に着目した平野氏は、ブルーベリー栽培の技術提供をすると共に、現地教育機関と連携した教育型プログラムを提供するプランを発表しました。ブルーベリーを通し農家と人々が繋がり、ザンビア全体での健康向上を目指します。
当事業は、ザンビアの農業における新たな可能性を切り開くものであり、平野氏の強い熱意と現地での実証実験を見据えたプランは、多くの参加者の関心を集めました。
橘秀治氏(JICA青年海外協力隊事務局長)は、「帰国後10年経過してもザンビアへの情熱を持ち続けていることが非常に嬉しい。農業を通して高付加価値商品を生み出そうとしているのが、非常に平野さんらしいプランだと思う。EUでの展開も可能性があると思うので、世界へ展開していってほしい。」とエールを送りました。
(写真:ピッチ発表者の1期生(左から平野氏、太田氏、木村氏)
(写真:会場に駆けつけた同期生と発表者。協力隊x起業の共通項で繋がる輪)
第2部: トークセッション「JICA BLUEの振り返りと今後の起業支援における展望」
第2部では、JICAとボーダレス・ジャパンから4名が登壇し、JICA BLUEプロジェクトの振り返りと、今後の起業支援の展望について語りました。
BLUEは、第2の協力隊活動のはじまり
初めに、JICA青年海外協力隊事務局長の橘秀治氏は、青年海外協力隊事務局の取り組みを交えながら、BLUE1期の振り返りを発表しました。
BLUEを通した一番の発見として、「起業に限らず、自分なりに見つけた課題に取り組もうとしている帰国隊員が非常に多く存在していること。その人たちは”第2の協力隊活動”を始めた人たちだ、という印象を強く受けた点」と話しました。
そして「BLUEは、これまで交わることのなかった様々なOVが、縦横斜めで繋げていくことで、新たな社会的インパクトを生み出す可能性を秘めている」と、当プロジェクトが持つ可能性を述べました。
また、橘氏はJICAが今後もこのような支援プログラムを継続し、より多くの海外協力隊経験者が起業に挑戦できる環境を整えていきたいと考えていることを述べました。
起業は生き方、JICA海外協力隊が持つ起業家素質
次に、ボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成氏は、BLUEの参加者アンケート結果を踏まえた振り返りを行いました。
最後に、田口氏は「OVは自分の想いに素直に生きる強さがある人。その資質こそが起業家として必要な要素」である点を述べ、OVが持つ素質と社会起業の共通項についてもオープニングイベントで話したスライドを用いながら話しました。
その後、BLUEのプロジェクトリードを務めた黒田 篤槻氏と半澤節氏(ボーダレス・アカデミー代表)を交え、4名でトークセッションを行いました。
黒田氏は「イベントで全国へ行ったが、出会うOVに 『これからも継続してほしい』と力強い要望をいただいた。人生をかけて起業をしようとしている人と接することで、人の人生に関わるこのプロジェクトの意義を感じ、協力隊事務局としても継続的に本気で取り組むべきプロジェクトであると感じた」と話しました。
半澤氏は「OVの方が持つ”馬力”に圧倒されることが多かった。3ヶ月の起業伴走プログラムでも、発表直前にプラン変更をする人もいた。自分のプランに頑固でいることも大切ですが、いいと思えば柔軟に変化をしていける”ピボット力”は、起業にとても大切。それを持っているOVの方の強さを感じる期間だった」と、OVへ起業伴走支援を行った感想を共有しました。
ネットワーキングと交流会
イベントの締めくくりとして行われたネットワーキングと交流会では、参加者同士や登壇者との意見交換が行われました。会場には、ブース出展も設置しJICA海外協力隊を経て起業をしている方の商品展示や販売が行われました。
siimee(シーミー) ラオス製アパレルブランド
「旅するように、選ぶ服」をコンセプトにしたラオスの手織り布を使ったアパレルブランド。ブランドオーナーは、ラオス隊員の梅谷菜穂さん、加藤友章さんのOVご夫妻です。
ZUMOT JAPAN (ヨルダンワイン)
日本では希少な中東ヨルダンのワイン販売を行うZUMOT JAPAN。ヨルダンで体育教員、美術教員としてそれぞれ派遣された遠藤ご夫妻がショップオーナーです。
一般社団法人協力隊を育てる会 (書籍販売)
JICA海外協力隊事業を長年支え続ける一般社団法人協力隊を育てる会。今回はイベント登壇者である橘氏の著書である新刊『JICA海外協力隊から社会起業家へ 共感で社会を変えるGLOCAL INNOVATORS』の先行販売を行いました。
JICA BLUE最終報告会は、JICA海外協力隊経験者が社会起業家としての道を歩み始める重要な一歩を見届ける場となりました。3ヶ月間の起業伴走プログラムを通じて、自らのビジネスアイデアを磨き上げ、社会に貢献する具体的な計画を立てた3名の発表者たち。今回のビジネスピッチを通じて、熱意とビジョンが多くの人々に伝わり、新たな挑戦を後押しする力となったことと思います。
今後もJICA BLUEは、さらに多くの起業家を支援し、新しい社会貢献の形を創り出すため進化を続けてまいります。JICA海外協力隊の経験を活かし、世界の社会課題を解決するアントレプレナー(起業家)が増えていくことを楽しみにしています。