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日本の子どもたちを一人残らずHAPPYにする

2024.06.11 国内起業

教育が国の未来を創る。 仕組みから日本の教育を変えていく 株式会社NIJIN 代表取締役 星野達郎

令和6年1月の文部科学省発表の資料から小中学生の不登校児童生徒数は約29万9千人、過去最多となった。10年連続でその数は増加し続けている中、これは国全体として対応すべき急務の問題だといえる。この国の未来を担うのは子どもたち。彼らが不登校によって学びの機会がなくなってしまわないように、取り残されないように。そして、子ども本来の明るさを取り戻せるように。

さまざまな理由で不登校になった子どもたちが学校へ行かなくても、質の高い教育を受けることができるように、そして不登校によって人との出会う機会がなくならないように、株式会社NIJINはメタバース上にオルタナティブスクールを設立した。「暗い顔で過ごす子どもたちを一人残らずハッピーにしたい」、そんな強い思いを持ち、人生を懸けて取り組んでいるNIJINアカデミー校長兼代表取締役の星野達郎さんに話を聞いた。

友人がきっかけで応募した青年海外協力隊

「当時は教師になりたいとか、教育に熱い思いがあったわけではないんです。父親が教師をやっていて、1番楽な学部はどこかと聞いたら教育学部と言うので千葉大学の教育学部を選んだという感じで(笑)。大学生活も最初は堕落してました。でもそんな自分がすごく嫌だなと思って、大学1年生の時に自分を変えたくて添乗員という仕事を始めました。そこからそのツアーの仕事にのめり込んでいったんですよね」

学校と両立しながら添乗員の仕事で47都道府県、そして海外を飛び回る生活。お客様の旅を楽しく豊かにするためにはどうしたらいいかを必死に考えていたという。そこから海外協力隊の隊員としてグアテマラへ行くきっかけは何だったのだろうか。

「実は海外にもそんなに興味がなかったんですよね。何をしたらいいのか、自分は何のために生きてるのか、思春期の時から悩んでいた。もしかすると異国に行けば見つけられるんじゃないかという淡い期待はあったと思います。これからの人生をどう生きていこうかと考えていた時に、たまたま親友が途上国の子どもたちのために学校を作りたいという夢を持ってJICAの青年海外協力隊へ行くというので、私も応援したいし、ついて行こうと思ったのがきっかけでした」

初めは軽い気持ちで応募した青年海外協力隊の経験が、後に星野さんの人生を大きく変えていくこととなる。

グアテマラ、たった一人の日本人への洗礼

2013年度3次隊としてグアテマラのキチェ県に派遣された星野さんの仕事は、グアテマラ政府とJICAが協力して作成した教科書をパイロット校を巡りながら普及させていくという職務内容での派遣だった。しかし、現地に行くと思い描いていたような歓迎モードではなかった。

「1ヶ月の研修が終わった後に、カウンターパートという現地の配属先のスタッフが首都に迎えが来るんですけど、同期6人にはそれぞれ迎えが来たのに、私だけ迎えが来なかったんですよね。そこら辺からおかしいぞ?と思っていました。

現地の教育事務所に行ったんですが、そもそも誰が呼んだんだ?呼んだ覚えがないぞ、みたいな話になっていて(笑)。何しに来たんだと何度も言われたし、その語学力でできることがあるのか?と言われたこともあって、すごい悔しかった。最初は本当に帰りたいと思っていました」

それでもここで頑張っていこうと心を決めたのは、現地の子どもたちの姿と教育に関わる人々との本音のコミュニケーションだった。

「グアテマラには日中も学校へ行かずに靴磨きや街角で野菜を売っていたりと労働している子どもたちがたくさんいて、一方で学校を見ると本当に質の低い教育が日々行われていました。教育の実態と子どもたちの姿がリンクして見えたんですよね。これでは子どもたちが貧困の連鎖から抜け出せないと思ったし、やっぱり教育って大事だなと。教育を変えていくことが、子どもたちの可能性を広げていくし、未来を作っていくと思った。

日本人という異分子だからできること

「ある日、お酒を飲みながら実際に教育について語ってみると、みんな自分の国や県、市に対してもっとこうしていきたいんだっていう強い想いを持っていた。そうやって腹を割って話せたことが、自分の中で大きく変わるきっかけでした。想いを聞いたら彼らのことがすごく好きになったんですよね。

その想いを実現するために日本人として何ができるかを考え始めたら、現地の人とうまくコミュニケーションできるようになっていったし、語学力もどんどん伸びていった。そして、彼らが言っている言葉のその裏にある想いまでなんとなく分かるようになった時に、やっと本当に国際協力ができそうだなと自分の中で思いました」

はじまりはよそ者だった。けれども教育に熱い想いを持つグアテマラの仲間たちと、対話をし、議論をし、腹を割って話し、同じ目的を合意して共に歩めたからこそ、この地で必要とされる人材となっていた。気が付くと、任期が終わる頃には教育の専門家としてさまざまな街で講演して回るようになり、グアテマラそして中南米のJICA専門家としても正式なオファーをもらった。

日本とグアテマラ、違うからこそ関わる価値がある。日本人であることの意義を感じた瞬間だった。

綺麗に形が作られすぎた日本の教育

帰国後、青森の学校の教師として赴任した星野さん。そこで、日本の教育システムに疑問を感じるようになる。

「シンプルに日本の教育は素晴らしいなと思います。でも一方で、形は非常に綺麗だけれどもやることが決まりすぎていて、幸せそうに教育をしていなかった。これはまずいな、と思いました。

日本の学校では、さまざまなことが学校や職員室の中だけで完結してしまっていることに葛藤を感じました。グアテマラであれだけたくさんの人といろんなプロジェクトができたことを経験してきたのに、ここでは自分自身も含め、中に閉じすぎてしまっていることが大きな課題だと思った」

日本で教師として生徒たちと接している中で気付いたこと。それは自分を出せない子どもたちがたくさんいることだった。自分の教室の子どもたちはハッピーにできるけれど、隣の教室の子どもが救えないという現実。目の前の子どもたちの姿と、不登校30万人という全国で起きている社会問題がリンクした。

「先生も保護者も子どももみんな頑張っているんですよ。一生懸命やっているので、誰も責めてはいけないなっていう思いもありました。じゃあその中で、自分を出せない子どもたちや学校に行けずに苦しんでいる子どもたちが幸せになる未来をどうやって創るか。それは仕組みを創るしかないって思ったんですよね。

誰のせいにもせずに、みんなが幸せになれるような仕組みを創るにはどうしたらいいか。そこで出会ったのが起業という選択肢です。それまで起業にあまり興味を持っていなかったし、両親も公務員だったので自分がまさか起業するとは思ってもいなかった。でも仕組みを創るという文脈で考えた時に、起業しかないと思いました」

教師という安定の職業を捨てて、起業というスタートを踏み切った星野さん。自分がこれから挑戦することは100%人のためであり、国のためであると自問自答し続けた日々の中で、大きな後押しをしてくれたのは、グアテマラでの経験だった。異国の地で一人から始めたプロジェクトがいつしか仲間が増えていったこと。それこそが自分自身を信じる大きな力となった。

子どもたちが幸せになれる仕組みを創る、
「起業」という選択肢

「初めは授業てらすという教員研修プラットフォームを立ち上げました。学校の授業をもっと楽しくしようと。楽しくする、というのは授業を対話的で子ども主体のものにすること。それを全国に広げて“全国の教室をハッピーにする”というスローガンでやりました。

子どもは小学校1年生から中学校3年生まで8830時間の授業のコマ数を受けるんです。その時間が楽しいか楽しくないか、自分たち主体で対話的に学べているかどうか、それはその子の人生を左右するものでもあるし、国の未来を左右するものでもあると思っています。

まずは教師として授業を変えていくために一流の先生たちに声をかけて、日本の教室を変えていくんだ、というプロジェクトを1年目にやりました。それが 1年間で500人の規模になって、日本最大級のコミュニティになったんです。

手応えもあったし、やってるな、頑張ってるなと思った。でも残念ながら不登校の生徒は増え続けたんですよね。これだけじゃだめなんだと思ったと同時に、学校をハッピーにするのはもちろん大事だけれど、同じように学校が合わなかったり、学校にいけない子どもたちをハッピーにする仕組みを創らなければならないと思って、このNIJINアカデミーを立ち上げました」

不登校の子どもたちが、自分らしく学べるメタバース学校

NIJINアカデミーを立ち上げてから約7ヶ月、現在生徒数は120名にのぼる。これまでに150人以上の子どもたちが通い、30人以上が卒業をしていった。卒業メンバーのうち9割が自信や自己肯定感を取り戻し、学校へ戻ることができているという。

そもそもなぜ、“メタバース”で学校を作るアイディアに至ったのか。そこには、不登校の子どもたちや保護者たちと向き合い、何度となくヒアリングを重ねて見えてきたことがあったからだ。

「彼らの言葉を聞いていくと、不登校の原因が人間関係であることが多かった。不登校になった瞬間に、今度は地域や周囲の目が気になって家から出られなくなるということが分かってきたんです。これは、私も分かるなってすごい共感したんですよね。

家から出られなくなると豊かな教育体験や友達、そして信頼できる大人と出会う機会がなくなってしまうので本来持っているはずの子どもたちの自己肯定感が奪われてしまう。これは由々しき問題だと思いました」

不登校の子どもたちが、家から出なくても、学校に行かなくても、学ぶ機会とさまざまな人々と出会える場所、それがメタバースという方法だった。

教育というものは学校で行われるという常識を変えていきたいと彼は言う。教育は学校で行わなくてもいいし、できるんだということを証明していく。不登校であることが希望に変わるように。

Be HAPPY Do HAPPY

「NIJINアカデミーを立ち上げてから何より嬉しいことは、子どもたちが本来の明るさを取り戻した瞬間ですよね。私が教師時代に子どもから教えてもらったことは、明るくない子どもなんていない、ということなんです。どの子もその子らしい明るさを必ず持っている。それを学校という場所で奪われている。だからこそ、その子の明るさを取り戻した瞬間が本当に嬉しいです」

NIJINには3つの意味がある。虹と日本人と「二人」を音読みにしてNIJIN。

「虹というのは、どの子もその子らしくあってほしい。個性というものの力を強く信じているので、私たち一人一人が個性を発揮して自分も人もハッピーにしていく世界を作りたい。2つ目は協力隊の経験から日本人であることを強烈に意識したので、これから生きる子どもたちには生まれ育った国に誇りと希望を持って生きてほしい。

3つ目は「二人」と書いて「NIJIN」。やっぱり誰かがいるから人生がある。人がいて、葛藤するからこそ、人生って面白いんです」

彼が着ているパーカーに描かれていた「Be HAPPY Do HAPPY」。そこにはこのNIJINに込められた想いと星野さんの描く未来が詰まっている。

「君には幸せになる力があると同時に、人を幸せにする力もある」

星野さんが子どもたちやNIJINのスタッフにいつも掛ける言葉だ。

人はHappyになるために生まれ、人をHappyにするために生きている。それは人が本来そうあるべき姿であるのにもかかわらず、なぜこんなにも尊いと感じるのか。

子どもたちが持っている一人一人の光を放てる仕組みを創る。星野さんの挑戦は、子どもたちや教育現場だけでなく、この国の未来をも「Be HAPPY Do Happy」にしていくのだろう。

当たり前だけれども、今の積み重ねが未来となる。子どもたちに宿る幸せの積み重ねは、この国の豊かな未来につながっていくことへの揺るぎない答えだ。

Photo:Yoshihiro Nagata
Text:Tomomi Sato

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