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アフリカを安全な水で満たす未来をつくる

2024.04.06 海外起業

アフリカの水問題に 本気で向き合う若き起業家、 株式会社Sunda Technology Global 代表取締役CEO 坪井彩

SUNDAとは「Pump(汲む)」を意味するウガンダの言葉である。会社のスローガンである「Pump up Water、Pump up Africa」。それはまさに水を汲み上げて、地域を安全な水で満たし、アフリカを元気にすること。

アフリカの水問題の中でボトルネックとなっている継続的な井戸の維持管理のため、村民が無理なく公平に水を使った分だけプリペイドで料金を支払う仕組み「SUNDA」を青年海外協力隊の任期中に開発・設置。現在もウガンダに活動拠点を置きながら、「SUNDA」の改善、設置拡大に力を注いでいる株式会社Sunda Technology Global代表取締役CEOの坪井彩さんに話を聞いた。

前職でのワークショップから
アフリカの深刻な社会問題を知る

「子供の頃は海外に全く興味がなかったんですよね。初めて海外に興味を持ったのが、大学院の時に研究の一環として、インドとバングラディッシュに行かせてもらったことがきっかけで途上国に興味を持つようになりました。

その後、前職(大手電機メーカー)のワークショップで、アフリカについて学ぶ機会があったのですが、解決しなければならない課題や深刻な問題がとても多いと感じた。実際に活動している日本人が少ないことも知り、自分がやる意義があるのではないかと思ったことがアフリカへ行くモチベーションとなりました」

「アフリカの社会問題をビジネスという手段を使って解決してみたいと思ったのですが、実際にアフリカへ行ったことがないとなかなか具体的なアイデアが思いつかなかった。やっぱり現場に行かないといけないと思って」

そうして彼女は2017年、JICAの青年海外協力隊コミュニティ開発隊員として、2018年の1月から1年間ウガンダへと渡る。彼女の任務は水の防衛隊として、井戸の維持管理について活動することだった。

青年海外協力隊でウガンダへ、
そこで見えた社会課題

「ウガンダへ来た初日の印象は今でも覚えています。えらいところへ来たな…と(笑)。最初の1カ月は首都のカンパラにいたんですが、そこから村へ移動した時に首都と田舎のギャップも激しいので、また、えらいところへ来たな…と正直思いました。まさに異世界ですよね。

もちろん不安もありましたが、配属先の人々がとても良い方々で、一緒に住んでいた大家さんや、その家族もすごく優しくてアットホームだったので、寂しいと思うこともなく比較的落ち着いて楽しく過ごせました」

今まで遠隔の地である日本からアフリカの社会問題について考えていたこと、それを実際にウガンダの地で生活し、自分の目で見て、問題に直面している人々と対話をしながら、その根深い問題を目の当たりにした。そうして彼女の中で、想像していた社会問題がはっきりと輪郭をもった現実として浮き彫りになっていく。

「日本では当たり前に飲める水が、こっちでは本当に貴重なんです。元々、水問題への活動が隊員時の要請だったのですが、先輩方の活動報告書や水問題を解決しようとされている方々の活動を読みながら、いまだに解決されていないのはなぜだろう、と思いました。

その中で、活動のサポートをしても隊員が帰国するとその活動が持続できていなかったり、井戸管理の人が変わるとまたゼロからやり直しになったりしてしまうように、一時的なものになってしまうことが問題だと考えました。やはり、持続可能な仕組みを考えなければならないと。

任地で村の人々の意見を聞いてきた中で、井戸の維持管理に必要な料金回収の大きな問題がありました。そこで、その住民の人々やエンジニアと一緒にアイデア出しをしながら、ハンドポンプにつける従量課金型のプリペイド式料金回収システム、SUNDAを開発することになりました」

SUNDA開発への苦難の道

SUNDAの一基目を設置するまでには、計り知れないさまざまな苦労があった。文化も価値観も違うアフリカの地での協力者探し、そして、インフラの整わない環境での開発、設置への道のりは、想像に難くない。

「1年間の協力隊任期中、一基を設置したのですが、実はその半年間はソフトウェアエンジニア探しに時間を使っていました。現在はエンジニアが2人いるんですけど、1人目は当時現地で活動されていた日本人の方に紹介してもらって、彼とは最初から今も一緒に活動していますが、2人目がなかなか見つかりませんでした。

探してトライアルして、探してトライアルしてと、5回ほど繰り返してようやく私の帰国1カ月前に見つかったんです。彼が今の共同創業者。彼と1カ月間、夜も寝ずに開発をしてようやく一基目の設置にたどり着きました」

「ただ、プロダクトの開発は一番大きな問題でしたね。もちろん現在ももっと改善しなければならないことがたくさんありますが(笑)。特に最初の頃は、設置しても翌日には問題が起きて動かなくなるということを繰り返していました。安定稼働するまで、お金と時間が過ぎていく時は本当にしんどかった。

開発拠点と現場を往復する大変さもありましたが、やっぱり村の住民の人々に迷惑をかけてしまっていたことが本当に申し訳なかったです。SUNDAを設置する井戸は、実際に住民の人々が普段使っている井戸ですので、私たちが作業している間は水が使えないですし、稼働が止まると水も止まってしまう。

それでも村の人たちは、“新しいものを作ることは本当に大変なことだから、すぐにうまくいくわけじゃない。がんばってほしい”と理解してくださっていたことがとても励みになりましたね」

任期終了後、再びウガンダへ

一基目の設置が完了後、彼女は青年海外協力隊の任期終了とともに日本へ帰国する。しかしその2年半後、彼女はSUNDAのアフリカ全土での設置を決意し、ウガンダの人々への思いを胸にこの地へ戻ってくる。

「隊員として来る前は、正直ウガンダの人々は他人という感じがしていましたが、実際に村に何度も何度も通ううちに彼らが他人ではなく、家族や友達のように近い存在になっていった。そんな近い存在の人たちが生活で大きな問題を抱えていて、困っていた。それを何とか解決したいと任期中にずっと考えていました。

SUNDAは村の人々と、現地のエンジニアたちと一緒に本当に苦労して作り上げたものだったので、活動後もお世話になった村の人たちに継続して使って欲しいという強い思いがありました」

「エンジニアであり、現在の共同創業メンバーたちも私の帰国後に継続的に現地へ行って、機器の改善を本当にがんばってくれていましたし、私の後任の隊員や協力隊の同期が残ってSUNDAの活動をサポートしてくれていた。そういう姿を見ながら、私も彼らの活動が継続できるようにがんばりたかった」

2020年、彼女は一緒に開発を行ってきたエンジニアたちと共に株式会社Sunda Thecnology Global を創業し、会社としての第一歩を踏み出す。それはウガンダで出会った人々への思いに対する彼女の覚悟でもあった。

「起業に対してもちろん不安はたくさんありました。何でもそうですけど、やったことのないことをやる前が一番不安なんですよね。でも実際にやってみるといろいろ分かってくるので、不安は次第に消えていきました。

何より共同創業者2人が楽観的なので、解決策が出ない時も“なんとかなるよ”って言ってくれるので気が楽になるし、一歩でも前に進もうという気持ちになれます」

戦友、そして仕事のパートナーを
超えた家族のような2人

共同創業者兼エンジニアのSamsonさんとAbdusalamさん。彼ら2人との出会いがなければ今のSUNDAはなかったかもしれない。嬉しい時には共に喜び、困難にぶつかった時には共に悩み、日々起きる問題に対し共に考え抜く。

「間違いなく私の人生の中でとても大切な人ですし、戦友ですね。もはや家族に近い存在かもしれません。緊急連絡先に2人の連絡先が入っているので(笑)。議論で激しい言い合いもありますが、ちゃんとけんかできる関係であるのはいいことだと思っています。

私自身も自分に正直に、外にも素直に表現している。同じゴールに向かう仲間だけれど価値観も違うから、そこを大事にしながら、お互い正直に伝え合うようにしています。

全然違う3人だからこそ、それぞれアイデアが出てくるし、エンジニアとしての強い情熱を持っているので、将来的にも水問題以外でもいろんな取り組みを一緒にできたらすごく面白いと思っています」

SUNDAの現在地とその先の未来へ

2020年にSUNDAがJICAの技術協力プロジェクトで採用されたことがきっかけで、設置台数を大幅に増やすことにつながった。現在、ウガンダのムベンデ県とミティアナ県に200機ほどの設置に至っている。これから先10年で、アフリカ全土への拡大を目指している彼女たちの挑戦はまだまだ道の途中だ。

「目標に対して、現状は1%以下です。アフリカ全土に広げていきたいので、まだまだ一歩すら踏み出せているかどうか。この10年でアフリカの水問題が今と違う状況に変わっていたらすごいと思うし、価値があることだと思います。

ビジネスとして成功させたいというよりは、SUNDAとしての役割をきちんと果たしながら、関係者のみんなと共に根本的にアフリカの水問題をなるべく早く解決できるように頑張っていきたいです」

そう、からりと笑う彼女の先に見えているアフリカの未来を、私たちも共に見たいと願う。

Photo:Yoshihiro Nagata
Text:Tomomi Sato

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